被せ物への配慮
被せ物の形態への十分な配慮の差(作る技工士の腕の差)

歯の形は個人個人によって微妙に違っていて、その形と位置は乳歯の生え替わる時期に顎の成長とリンクしながらできあがっていきます。歯の表面はたくさんの凹凸で構成されており、この面のことを咬合面と呼びます。そして、咬合面には大きな意味が隠されているのです。
適切な咬合面の角度
私たちが食事するときの咀嚼効率(噛みきる能力)を高めるためには、歯につける咬合面の角度はできるだけ急なほうが良いのですが、やりすぎてしまうと、歯を横に動かしたときの歯の干渉が起きやすくなってしまうので、顎に大きな負担がかかってしまいます。
逆に、歯につける角度を緩やかにすると、歯を横に動かしたときの干渉は少ないのですが、裁断効率が悪いために負担過重となってしまい、長期的に見ると歯槽膿漏になりやすくなってしまいます。また、顎の噛み合わせ時の位置が定まらず、それを支える関節の靭帯が緩んでくるといった危険性もあります。
そして、以下のような考えなければいけない重要なことが出てきます。
顎の形態とその動きのデータを事前に把握することが大切

虫歯や抜歯などで歯を失って、そこの場所に何らかの新しい歯を入れなければならない場合。歯を作る歯科技工士さんは、通常、それ以外の周囲に残っている歯の形を参考にしながら新しい歯を作っていきます。
この場合、健康保険の歯のように大量生産的に作られてしまうと、その人特有の顎の形の動きに調和した咬合面形態になっていないことが多いのです。
だからこそ、顎の動きのデータを事前にコンピュータで測定することが大切なのです。その人に備わっている顎の形態とその動きのデータを事前に把握して作った歯と、勘に頼って形だけ似せて作られた歯を比べると、その機能性と安全性には雲泥の差があります。
医者としての考えに基づいて作られる歯
この考え方は、オーストリアにあるウィーン大学のR.スラヴィチェック博士らの研究がもとになっています。オーストリアでは、歯学部教育は医学部卒業後にさらに選択して受けられるもので、言うなれば人間にとって「受け入れられる噛み合わせはどうあるべきか」、といった医者としての考えに基づいて作られたものなのです。
治療の際に気を付けなければいけないのは、
1.臼歯である場合
2.歯の欠損部位が多数ある場合
3.前歯や犬歯のように顎の動きの案内役になっている場合
などです。
一般的によくみられる、咬合面形態の不具合によると思われる臨床上の症状や兆候としては以下のものが挙げられます。
1.よく歯をみがいているつもりなのに、最近歯がぐらぐらしてきた
2.片噛みになっていて肩が凝りやすい
3.前歯が何となく開いてきた、または出歯になってきた感じがする
4.新しい歯を入れたあとに、いつまでもしっくりこない感じが続いている
5.顎が疲れやすい
これらは一見噛み合わせと関係なさそうに見えるのですが、非常に関係が深いことが多いのです。一般の自費治療で素材が良質で高価な歯であっても、こうした概念で慎重に咬合面形態を作ることは、少ないのが現状です。その理由の1つに挙げられるのが、そういった考え方を勉強して、歯の咬合面形態を作り上げることのできる歯科技工士さんが、日本には少なすぎるという点です。また、慎重に咬合面形態を作っていくためには、通常よりも時間がかかり、金額が割高になってしまうという点も理由に挙げられるでしょう。
小さいとはいえ歯の咬合面は、それが歯科治療のすべてであるといっても過言ではないほどに、非常に重要な要素です。
歯の形態・機能面への徹底した配慮

当医院にて「精密検査後の自費治療の歯が、健康保険の歯の値段とどうしてこんなに違ってしまうのか」という理由には、実はこうした歯の形態、機能面への徹底した配慮がなされたものか否かの違いが挙げられます。
たとえとしてはいささか不適当かもしれませんが、その人の足回りを採寸して木型から作ったオーダーメードの靴と、とりあえずサイズのみあう既製品の靴との違いのようなものです。我慢して履いているものの、それによる弊害(靴擦れなど)を経験された方も多いと思います。
自然の作り上げた形態に無駄なものはないとよく言われますが、個人個人の天然歯の形態もまさにそうだと言えるでしょう。毎日休むことなく過酷な状況下で一生使う大切な部分に、省略して作られたまがいものを入れたくはないと考えられている方は多いのではないでしょうか?
真に本物をとお考えの方には、お分かりになると思います。歯科技工士さんが作る歯も、実はれっきとした人工臓器の1つなのです。そのことを、どうか覚えていてください。
オーダーメードの歯が作られるまでの流れ




オーダーメードの歯がどのようにして作られていくのかをご説明しましょう。
まずはWaxで歯の形を作ります。今までの一般的な作り方は、周りの歯の形に似せて作っていくだけでしたが、それでは歯の溝の角度は歯科技工士さんの個性や技術によってまちまちになってしまいます。形はよくできているように見えるのに、結果として長期的に機能しにくいものとなってしまうということは往
々にしてあります。
歯の溝の角度が、その人の顎の動きを司る顎関節の角度と密接に関係しているにもかかわらず、そのデータが分からないまま、その形態を何となく周りと同じように作り上げてしまっている……それが現状なのです。
どのくらいの角度で作っていけばよいかは、先に得られた患者さんの顎の動きのデータをもとに、1本ずつ歯の場所によって変化させていく必要があります。そうでなければ、長期的に完全に顎の動きと調和して機能し得る歯にはならないでしょう。
大臼歯の溝の角度と小臼歯の溝の角度は当然違いますし、患者さんも皆違うわけです。
また歯と歯は上下が噛み合ったとき、点と点によって接触しなければ、歯への負担が増大してしまい、知らないうちに歯槽膿漏が進行していきます。
歯の溝だけを飾りのようにつけても、実は面と面同士が接触してしまっていたり、しっかりと噛み合っていなかったりといったことが、健康保険の歯の場合には非常に多く見受けられます。
よくみがいていたし、虫歯も全部治してあるのに、治した歯からぐらぐらになって、だめになっていくような場合は、まさにこの咬合面形態に問題があると考えられます。しかも上と下の歯の位置的な問題でしっかりと噛み合っていない場合も多々あります。「自分の歯だから」という油断はいけません。
※写真提供は東京都目黒区の歯科技工所、榊原デンタルラボです
適切な咬合面形態を作成することが大切
自費治療のなかでも、特に噛み合わせの機能を重視し、咬合面形態を作っているところをご紹介しましょう。
1 本の歯を構成する凹凸と溝、個人個人の顎の動きによって得られたデータをもとに、それに調和するような形として仕上げていきます。
歯が噛み合ったときに使われる機能面や、横に動かしたときにすり合わされるガイド面などを、色分けされたワックスで作っていきます。それらがいかに手間ひまかけて作られているのか、お分かりいただけますでしょうか?
※写真提供は東京都目黒区の歯科技工所、榊原デンタルラボです
「面と面」での接触は歯槽膿漏の危険あり!

一般的に、歯は上下合わせて28本あります。
上下の歯はそれぞれが非常に精巧に噛み合っており、無駄な歯は1つもありません。
歯が噛み合ったときには、面と面は向き合っていますが、実際には点と点で接触していることが要求されます(赤い点がそれです)。
1本1本の歯は多数の点接触によって噛み合わせを作り上げていきますが、もしこれが面によるものであるとしたら、歯への負担は相当なものになり、歯槽膿漏になる危険が増えていきます。
加齢による天然歯の咬耗のため面接触になってしまう歯が多いということは、歯槽膿漏罹患率増大の一因となっています。

左の図は、正しく噛み合ったときの点接触によって、歯の根の方向に無理なく力が伝わっていく様子を示しています。噛み合わせが安定するには、最低でも3点で接触する必要があるのです。
コメント
とかく、被せ物の値段の違いは素材の違いとして認識されている場合が非常に多いようです。もちろん、素材によっても値段は違いますが、当医院では素材の違い以上に、歯の機能的な違いとも言うべき、形態の違いによって値段の違いがあると考えております。
それを作ることのできる歯科技工士さんは、現在の日本にはわずか数人しかいません。ですから、その仕事は当然自費扱いとなり、どうしても大量生産はできません。歯型をとってから皆様のお口の中にセットされる歯ができあがるまでに、1ヶ月はかかるのが普通です。

これは完成したワックス状態の歯の咬合面形態です。天然の歯はこれぐらい複雑な面形態で構成されております。歯を正確に再現するのには、大変な労力が必要です。皆さんのお口の中に入っている被せ物の形態はどうでしょうか?
このあと、ワックスをクリストバライトという石膏のような素材のなかに埋めて固めたあと、高温をかけて溶かして空洞状態にしたところに、金属やセラミック(陶材)を流し込んで最終的な被せ物を作り上げます。





